第50章 前方の敵
「…だとよ」
「ハッ、そんな女の意思を尊重するのか?
馬鹿か?痛い目を見るぞ?」
「馬鹿でも何でも、そいつも人だ。意思くらいあるだろ」
政宗が笑みを深める。
「刀を捨てなかった事、後悔しろぉ!」
「俺は後悔なんてした事が、な、いん、だよっ‼︎」
(親父の時みたいな事は絶対にしないっ)
敵将の怒号にも勝るほどの気迫で政宗はそう言いながら、一歩踏み込む。
「そいつが……捨てられるくらいのお荷物だったらとっくに捨ててるんだっ」
聴こえるか聴こえないかの声を吐き出して、
更に一歩にじり出す。
「⁉︎」
敵将はビクッと身を震わせ、ほんの少し足を擦り下げる。
「ツ」
瑠璃を捉えている右手側は直ぐに崖だ。
後ろは山中へと木々が繁っている。
左手の刀を瑠璃の胸元に構え、政宗を睨む義隆氏。
先に動いたのは…
政宗の踵。
「‼︎‼︎
ワシは生き延びる!」
それに反応した敵将がそう吠えて
刀を持った左手を横に引く。
と同時に右腕を外側へと押し出した。
そして、瑠璃から手が離される。
「⁉︎ ぇ…ぁっ…キャァァァァーーーー」
瑠璃の高い声が響いて宙に広がった。