第50章 前方の敵
「窮鳥入レ懐(きゅうちょう懐に入る)だ」
本来、
追い詰められた鳥が人の懐に飛び込む。
困窮し、頼ってくる者を憐れみ助けるべき事の例えだ。
しかし、今、大将を殺すつもりの政宗は、ただの施しではなく、似ている今の状況を例えただけだった。
(施しなんてあるもんか、…絶対殺すっ)
鬼憑(きひょう)されたかのような気を放ちながら憾恚(かんい)を瞳に宿し、刀に手を置いたまま、前方を見つめる政宗。
「さっさと終わらせて帰還するぞ!
火箭準備を完了させろ!」
「政宗様っ!」
「政宗様っ!炙り出しはお考えなおし下さい!」
家来達が口々に政宗に進言する。
「五月蝿い‼︎」
「政宗様!」
政宗が我を見失ったような指示を出したのは父親を盾に取られた時以来だ。
「…やれと言ったらやれ」
冷めて硬い声音。
何故。
それは、
「政宗様、火をかけたりしたら、
人質となっていらっしゃる瑠璃様も危険ですっ!」
そう、中には瑠璃がいるのだ。