第50章 前方の敵
敵がジリジリとした思いで苛立っている間、伊達軍は静かに動いていた。
あえて、返事もせず、攻撃も遅らせていた。
城の後方から包囲する経路を取った。
動くのも真夜中。
兵を二分しての包囲はギリギリの攻防になる。
(光秀みたいな戦法は好きじゃないが…)
四の五の言っていられなかった。
平地での戦ではない為、真っ向からの突撃は難しい。
そのため、政宗らしくない戦法で攻める。
表向きは地形のせいだが、政宗の本心は瑠璃を拉致したことを怨怒しているからそこの戦法だったのだ。
(目にモノ見せてやる)
「包囲完了しました!」
滞りのない事を伝えにきた兵士を横目にした政宗は、
大きく息を吸った。
「…よし、火を放て」
「‼︎」
政宗の予期せぬ指示に家来が青ざめた。
「…し…しかしっ……」
「どうした、裏手から火矢を射ろと言っている。
炙り出す」
「政宗様っ!
出てこなければ、焼け死ぬのですよ⁉︎」
「構わない。
本人確認に手間取る焼死は好まないが、致し方ないだろう」
政宗は暗澹の蒼い瞳を砦に向け、
淡々と暗唱する様に言葉を紡ぐ。
そうではない、と言う表情で兵士は政宗を見ているが、
政宗は構ってはいなかった。
「火箭(かせん)準備‼︎」
政宗が大声で号令を掛けた。
「政宗様っ!」
「火が回り、窮迫窮期で表門を破る。
出てきた者は捕らえよ。
大将、参謀、側近らしき者は殺せ」
「政宗様!お考え直しを‼︎」
兵士が跪いて再考を必死に進言していた。