第45章 兆報
「家康様と政宗の会話を当分聴けないのは、ちょっと寂しいですね」
御殿への道すがら瑠璃が眉を下げてそう言った。
「……家康と居たいか?……」
揺れる気持ちが見え見えの一言。
それに、瑠璃は
「居たいですよ……」
甘やかな微笑みに穏やかな声音で答える。
誰かを想っているのは明白な心のこもった瑠璃の声音に、政宗は鼓動が速くなり、
心が刺々しくなるのを感じた。
それは表情を無くさせた。
「……」
黙って瑠璃を見詰める政宗に、瑠璃は続けた。
「隣りに政宗が居るならね」
悪戯な童女の様に笑う。
「…へ…」
「ん?そうでしょ?
政宗が居なければ、私は政宗の事ばかり考えるから、家康様が居ても居ないのと同じです」
間抜けな声を溢した政宗に、
真っ直ぐな眼と声がはっきりと言った。
「政宗が私の傍にいるから、私の見るモノは色付いて輝くんです」
そう言った瑠璃の銀鼠色の瞳はキラキラ輝いて、政宗を映していた。
瑠璃は聴いている方が照れてしまうほど綺麗な言葉を使う。
しかも、柔らかに澄んだ声音で。