第44章 足音
夕刻、帰ろうとしていた瑠璃は天主に登っていた。
呼び出されたのだった。
「急で悪い」
信長では無く秀吉がそう断った。
「いえ、大丈夫です」
いつも通り気怠そうに脇息に身体を預けている信長を前に、端座する瑠璃は短く答えた。
「早速だが、瑠璃。
昼間、お前が、知らない男と密通していた、
と言う報告が上がっている」
「……」
瑠璃はただ黙って秀吉を見ている、と言うより、睨んでいる。
「瑠璃、どうなんだ」
疑ってはいないが、些か不安げな秀吉。
「『そちら』が知らない人のは当たり前ではありませんか。私は知っている人です」
『そちら』とは、見張り、又は勝手に瑠璃をつけて来ていた護衛だ。
「お前また、そんな屁理屈を…」
秀吉は弱り顔になる。
「美弥さんと一緒に居たのに、
何故私だけを呼びつけたんですか?」
「それはだなぁ」
「美弥さんには尋問しないなんて、そんな贔屓、酷いんじゃありませんか?」
秀吉はますます弱り顔になる。
「報告が上がっている、以前に、その眼で見た、のでしようか?」
秀吉は、瑠璃を呼び出して問いかけようと思っていたのに、反対に問い詰められる羽目になった。