第40章 政宗、誕生日の噺ー前ー
攫われ酷い暴行を受け、
傷だらけの瑠璃を湯治に連れて来た場所。
あの背中の盛り上がった傷は、もう白い痕しかない。
けれど、記憶は残っているだろう。
なのに、何故ここを選んだのか。
(「辛くないか」と問うのは恐らく野暮だろうな。
アイツは何時でも前を見てる)
フッと息を吐くと政宗は喉を潤した。
独りは色々考えるから、好きじゃない。
必要なこともどうでもいい事も…。
『夜に考えると悪い方に考えるてしまいませんか?だから、考え事は昼間にします』
と言っていた瑠璃を思い出す。
聞いた時は唖然としたが、あながち間違ってはいなかったと痛感したのは瑠璃が居なくなってからだった。
闇は心に闇を連れて来る。
(だから俺にはお前が必要なんだ)
そう思いながら、宵闇に浮かぶ赤黄色い月を見ていると、
「政宗…」
ちょっと心許なそうな瑠璃の声音が政宗を呼んだ。