第36章 嵐 天主へ寄る
瑠璃は家康の背中を抱かなかった。
おろしたまんまの腕は
微動たりもとしなかった。
(瑠璃には特別な感情はない…)
そうは思うけれど、家康が告白した。
『今の政宗さんから奪ってもいいみたいだ』
そう言った家康。
(あの言葉、本気だったのかよ、家康)
政宗は抱き合う2人の姿を思い出し、
唇を噛んで、漆喰の塀を後ろ手に殴った。
翌日もその翌日も、
瑠璃の姿を見せてない間を埋めるかのように、瑠璃は毎日瑠璃の姿で城に上がっていた。
瑠璃が居るだけで、空気が穏やかでありながら引き締まる様だった。
特別な事言動があるわけではないが、皆が瑠璃を慕っているのが嫌でもわかる。
勿論、藤隆姫にも分かった。
どんなに上品に、威厳をもって振る舞っても、
どんなに優しく、女らしく振る舞っても、
皆、藤隆姫には馴染まなかったし、
靡もしなかった。
(何をするってわけでもないのにっ、なのにっっ)