第36章 嵐 天主へ寄る
瑠璃が袴に着替えて道場に入ると、
家康が襷(タスキ)を持って待っていた。
「?」
「瑠璃、こっち、おいで」
(⁉︎ おいで??)
家康らしからぬ台詞に、いつも平静を保っている瑠璃の心臓がドキドキと早くなる。
「ほら、瑠璃」
手を差し出された。
家康が微笑んでいる……
わけがない。
それなのに、微笑されている様に見える。
(眼の錯覚?)
瑠璃は3.4度眼を瞬いた。
(言い方?声色のせいやろか…)
首を傾げてから動揺を隠し、手を差し出して待つ家康の方へと歩き出す。
「腕、広げて」
「はい」
瑠璃は言われるがまま、ゆるっと腕を広げる。
すると、スルスルと襷が掛けられ結ばれた。
「結べたよ、緩くない?」
「はい」
「そ、よかった」
フッと笑われた。
(わらっ、た…)
翠の瞳が細められ、滅多に見られない柔らかな印象の家康。
(ツンデレの破壊力って、コレなんや…)
現代の女の子の気持ちが、古い時代に来てから解った瑠璃だった。