第36章 嵐 天主へ寄る
「つっ…」
姫は反論されてか、悔しそうな顔で光秀を睨む。
「それを考えもせず、政宗について回っていたとは、甘いですね。
姫君の大好きな政宗兄様は人殺しだ。
しかも、ソレが大好きだ」
「う……」
武士は戦をし、人を殺すことは知っていた。
知っていたけれど、それが英雄だと思っていた。
冷静な論理を突きつけられたのは初めてだった。
「ウソ、ではないだろう?」
「……」
言い返す言葉も藤隆姫にはなかった。
「戦に勝てば大勢を殺しても英雄で、
負ければ掌を返した様に、たちまち捕らわれ死刑となる。
囚人を殺すのも我らの役目だ。
それを、見聞もせず、武士の大将に嫁ぐと言われるのか。
なぜ、我らが平民に石を投げつけられるのかも知らず。
のうのうと生きておられるのだな姫君は。
クククク…」
(我らが石を投げられる…?)
安土に来てから何度目の衝撃だろうか。
姫は言葉を失ったまま、妖しく悪人のように笑う光秀を見つめた。