第36章 嵐 天主へ寄る
翌日はたまたま城に居た光秀が、藤隆姫に口をきいた。
「明智様」
「おや、小さな姫君、どうかしたのかな?」
優しい声音で、藤隆姫を姫らしく丁寧な口調で扱う。
そんな光秀に藤隆姫は上機嫌だ。
「明智様は今日は何をなさるの?
藤もご一緒してもよろしいですか?」
容姿は幼くとも口ぶりは大人の女の様だ。
「一緒?」
キラッと光秀の眼が妖しく光った。
「ほぉ、姫はなかなか、肝が据わっていると見られる」
「え?」
藤隆姫はなんの事だかさっぱりだ。
「死刑囚を引き摺り回すのだが、来ると言われるなら、よろしいですよ?」
金色の瞳が笑っている。
「⁉︎ やっ、野蛮人っっ!」
藤隆姫は顔を引き攣らせ、光秀を罵った。
が、光秀はそんなものどこ吹く風だ。
「何を仰るか、武士とは元々そう言う野蛮な者でしょう。
戦をし、人を殺し、襲い、金品を強奪する。
それが我々武士。
そして、その大将が我らです」
笑っていた瞳がいつの間にか刺す様に強くなっていた。