第36章 嵐 天主へ寄る
「瑠璃、貴様、あの娘に何を言った」
「家探しは泥棒猫のやる事ですよ、と言っただけですよ」
「やはり、お前の着物か。
と言うことは、美弥の仕立て中の着物を台無しにしたのも、あの娘にほぼ、間違いないな」
「さぁ、どうでしょう」
唇だけで笑う瑠璃は、とても愉快そうだった。
その日を境に他の者達にも明らかな変化があった。
今まで当たり障りなく接してきていた藤隆姫への態度が一変した。
「美弥様、今日はどう過ごされますか?」
藤隆姫が駆け寄り話しかけても、
「私、瑠璃さんの着物を縫うのに忙しいから」
と答えただけで美弥は姫を見もしないで行ってしまう。
「三成様、書庫へご一緒しても?」
三成に擦り寄るも
「今日は書庫にはいきません。
秀吉様の用がございますから失礼いたします」
取り合わない。
藤隆姫がつまらなそうに歩いていると家康に出会った。
「家康様、どちらへ?」
「弓道場。
弓、引けないヤツは邪魔だから来ないでよね」
先制攻撃で打ち砕かれる。
(私が、邪魔…)
藤隆姫は自信が邪魔だなどと両親からも言われたことがなかった。
家康の言葉は姫には衝撃的だった。
立ち尽くす姫を見もせず家康はさっさと行ってしまった。