第36章 嵐 天主へ寄る
「私を誰だと思っているのっ。
無礼にも程があるっ!」
怯えを隠す為か、怯えは怒りに変わった為か、藤隆姫は信長の膝に乗せられたまま、尚も喚く。
「フン、
それは我の台詞だ。
貴様、俺を誰だと思おておる」
燃える緋い瞳が、突きつけられた刀のように鋭く姫を捉えた。
「貴様、誰に頼まれた。
何を仕込んだ。
何の為だ」
重く湿った低音が耳元に吹き込まれ、
恐怖を増長させる。
「いっっ」
掴んだ手を強い握力を加えられ、
藤隆姫は顔を歪めた。
クククク…
信長は満足気に笑って姫を見る。
(…おっ……鬼…)
「ひっ…あ…わ、わた…」
「言わぬのか?政宗を呼ぶぞ?」
言わないのではなく、言えないのだ。
「貴様が此処にこうしているのを政宗が見たら何と言うだろうな。ククク…」
喉を鳴らして笑う信長。
(は…ん、にゃ…)