第35章 嵐 顕現
「恋敵のわたくしとは口も利きたくないのですわ」
サメザメと泣く真似をする藤隆姫。
そんな藤隆姫の背をそっと摩ると三成は
「そうですか。
…瑠璃様がそんな言い方をされるなんて…。
私が姫にあった書物を選んでさしあげましょう」
瑠璃を諌める言葉を口にし、
柔和な笑顔で藤隆姫を宥める。
それは藤隆姫の目論見通りなのか。
「さ、こちらへ」
「三成様、ありがとうございます」
手を差し出し、書庫内へ案内した。
「帰って政宗兄様に読んでいただきますわ」
本心か演技かは判らないが、藤隆姫はそう言って大喜びで三成の選んだ書物を抱えて出てゆく。
それを三成はあえて、終始笑顔で見送った。
(瑠璃様は草書体を全て読めるわけではありませんし、
あの書には少々 惨たらしい内容もありますから、姫には向かないと思われて、瑠璃様は断られたのでしょう。)
三成は瑠璃が藤隆姫に読み聞かせることを断った理由を考えた。
(いくら恋敵でも、無下に冷たくあしらう様な方ではありません。
それに……)
そう、今日は瑠璃は玉瑛の姿で登城していたのだ。
藤隆姫が瑠璃に会うのは無理、と言うこと。
三成は菫紫の瞳を暗くした。