第35章 嵐 顕現
(やっぱり……こんなに傷ついて…)
美貌の頬にも走り傷が付いている。
「城に出て来なかったのはコレの所為だね」
玉瑛の姿でも傷を藤隆姫に見られれば正体が暴露るおそれがある。
「で、この傷、どうしたの」
嘘つきに嘘を吐かせない程、強い家康の瞳が瑠璃を捉える。
「……森で花を摘んでいたら…擦ってたみたいで…」
瑠璃にしては歯切れの悪い物言い。
「森で花を、ね……顔にも…」
家康が親指の腹で、そっと頬の走り傷を撫でた。
「気を付けなよ」
思いがけず家康の柔らかで優しい声音に、
瑠璃は銀鼠色の瞳をクルンと揺らして、
珍しい物を見るように、津々と家康を見つめた。
「お.女、で、しょ、一応…////」
照れ隠しにそんなコトをいって、
あたふたと立ち上がった家康は、
「これ、ちゃんと塗って」
小さな貝に入った軟膏を瑠璃の手の中に押し付けていった。
瑠璃は暫くポカンとして、
手の中の貝をみて、クスッと笑った。
(不器用やなぁ……)
とても嬉しかった。