第35章 嵐 顕現
感情の見て取れない翠の瞳が、
ジッと藤隆姫を見下ろす。
「あっ、あっのっ.瑠璃殿が私に…
と…棘の、ある花を、差し出されて….
そ、それで、その棘が…刺さって….」
まるで何を勘ぐられているかのような家康の眼差しに、問われてもいないのに藤隆姫はしどろもどろに薬が必要なわけを話した。
「あっそ……」
家康は藤隆姫には我関せずの更に冷たい態度。
「だから…あ…く、薬を…」
家康の視線に耐えられず、藤隆姫は頭を下げ、床に向かって薬を所望した。
「……瑠璃には、俺から、気を付けるよう言っておく。
それで良いんだよね?」
顔を下げていて見えないが、
藤隆姫は頭上で家康に笑われた気がした。
恐々(こわごわ)と顔を上げて見るが、
家康は笑ってはいなかった。
(ひ……)
背中がゾッと寒くなった。
笑っていないどころか、頭を下げる前よりももっと冷たい。
そう、
殺気を帯びたような眼差しで自分を見ている家康を見た。
膝を折ると、家康は姫の前に静かに貝をおいた。
「それ持ってて、政宗さんにでも塗ってもらいなよ」
「え…」
「早く行きなよ。
俺、忙しいから」
家康は邪険に藤隆姫を追い払う。
「っ…はっ、はいっ」
藤隆姫も家康の気迫に慌て立ちあがり、逃げるように去った。
その場の空気が一気に静かになった。