第35章 嵐 顕現
「瑠璃様っ」
「んー……」
瑠璃は早朝、お夕に揺り起こされた。
「何時……」
つい、口を突いて出た馴染みの言葉。
「いいですから、コレを」
眠い眼をこじ開けて、渡された物を見る。
「文…?」
火急の知らせでもないだろうに、
何故お夕はそんなに慌てているのか。
文を読み、瑠璃は溜め息をついた。
「どうなさいますか?」
「…行きません、と言いたい所やけど、
行かんかったら、それはそれで、
面倒な事になりそうやから…
…仕方あらへん、行きます」
瑠璃は時間をかける暇もなく、支度を済ますと冷んやりとする朝霧の中へ出て行った。
襖の向こうに気配を感じて、家康は手を止めた。
「徳川様、いらっしゃいますか?
藤隆です」
「何の用?」
つっけんどんな返事が返って来た。
「薬をいただきたくて参りました」
「………何の」
かなり間があって、面倒臭そうな家康の声がそう問った。
「擦り傷の…」
姫が答えると、スッと襖が開いて、
小さな貝を持った家康が出て来た。