第35章 嵐 顕現
「別れてから何処へ行った」
「光秀様の御用付けで町の鍛冶場へ」
「どれくらい居た」
「…朝出て、昼八つ前頃だと思います。
その道、琴の爪を買いに行きまして、
ご主人が「お八つの刻ですから」と甘味を出して下さいましたから」
時計のないこの時代、時刻を正確に把握するのはとても難しい。
「日中は出掛けていて城にはおらなんだ、と言う事だな」
「はい」
「証拠は」
信長が鋭く眼を眇めたが、瑠璃は怯む事も恐縮する事もなく、信長の緋色の瞳を見つめている。
(自信か、ハッタリか)
「証拠、ですか?光秀様にお聞きになっても宜しいですし……爪?ですかね」
懐に入れてそのままだった琴の爪。
瑠璃は小さな小さな巾着を取り出すと、
掌に爪を出して見せた。
「爪に彫り物がしてあるんです。
美しいでしょう?
少々奮発しました」