第33章 撹嵐の姫君
「瑠璃、大丈夫か」
声をかけられ、ぼーっと思い出していた昔の事が断ち切られた。
(今は、隠れずとも…)
解ってくれる政宗がいる。
今は、自分の一息一動に何かを察し、
気遣ってくれる、無条件で理解しようとしてくれる人がいる。
だから顔を上げていられる。
隠れなくてもいい。
「悪いな。
聞かせたくない事を聞かせた」
申し訳なくも苛立ちを押し殺した声でそう言うと、政宗は瑠璃を抱きしめた。
「政宗も…言いたくない言葉だったと、思って良いですか…」
「当たり前だろ。
言った事はもちろん嘘じゃない。
藤原の名、公家との繋がりは有るに越したことはない。けれど、決して、それが先じゃない。
お前が先だ。
お前がお前だからだ」
(解ってくれ)
お首には出さないが、政宗だって不安だ。
願えば、瑠璃の背中に回した政宗の手にグッと力がこもった。
背を強く掻き抱かれた瑠璃は、
眼を閉じて安堵の息を吐いた。
「俺は、お前に持つ物がなくても、
お前が瑠璃である限り、愛してる。
お前だから愛してるんだ。
いいな」
淀みも迷いもない、力強い声音。
「政宗…」
「俺を信じろ」
瑠璃に安心をくれる声音でその台詞を言うのは
(卑怯だよ)
と思うほど、瑠璃にとって絶対的な言葉。
「はい、政宗」
(私の大切な人ー)
瑠璃は政宗に口付けていた。
「ちゅっ…好きです…チュ、チュッ…」
お互い不安を消し、
確かめ合うように口付けをした。