第33章 撹嵐の姫君
「瑠璃が取り入ったんじゃない。
俺が惚れたんだ」
淀みのない声。
「それに、瑠璃は京の左御子家、下冷泉藤原の娘だ」
切り札、駄目押しのように教えられた名。
「京、左御子家…藤原…」
東北の幼姫でも理解したのか、
愕然とした表情で藤原の名を復唱した。
「そうだ、繋がっていて損はない」
「だっ、だったらっ!
家の繋がりなら、私だっていいじゃない」
涕零の頬でも、藤隆姫は果敢に食い下がる。
「浅いな。
お前の家に力があっても地方豪族だ。
公家と繋がることはそれ以上の力になる。
要するに、瑠璃はお前よりも価値のある女だ」
『惚れたんだ』と言いながらも
政宗の口から淡々とされる説明は、
哀切になる程
『ただ利得のある女だ』と言うことだけ。
(許せ瑠璃)
政宗だってこんな言い方をしたくはない。
だが、駄々を捏ねる藤隆姫を納得させるために仕方なくだ。
心を凍らせて、あえて、
「瑠璃が好きだからだ」
「愛しているからだ」
などの、甘い言葉は口にしない。
何故ならそれは、藤隆姫を刺激し、
緩徐を逆撫でする可能性があるから。
穏便にやり過ごす為、政宗は、
耳に痛く、口惜しい言葉を苦渋の思いで吐き出し続けた。
※涕零…ていれい/こぼれ落ちる涙、泣く事。