第30章 奥州からの一行
「そうなんですね」
簡素で曖昧に返事だけをした美弥は
ころっと話を変えた。
「ところで、姫はお好きな事や物はありますか?」
美弥は誰に言われた訳でもないのに、
案内がてら姫をリサーチする。
「好きな食べ物は…魚ですかね。
好きな事は刺繍と組紐を作る事です」
(んー、まだまだ純粋そうだなぁ)
質問には笑顔できちんと答える藤隆姫に、
美弥は好感を持ちながら、
ふふふっと笑った。
「そうですか。
私は甘味全般と裁縫が好きなんですよ。
今度、姫の刺繍のお手並み、拝見させて頂きたいです」
美弥もこの時代に来た時よりも、
この時代の姫の扱いが随分上手くなった。
城内も粗方案内を終えた頃
「美弥様は信長様の姫様であらせられますのに、優しく、親しみやすく、面白い方ですね。
信長様の姫様が怖い方だったら…と心配さしておりました故、誠に安心致しました。
滞在中、仲良くしてくださいますよう、よろしくお願い致します」
美弥は藤隆姫に深々と頭を下げられて
「いや、あのっ、そんなっ」
しきりに恐縮してしまった。
(礼儀正しいし、性格も良さそうな子だな)
瑠璃の事を考えると、複雑な気持ちっった。
(いっそ、嫌な子だったら…)
手放しで瑠璃の味方が出来るのに、
と困った顔をした。