第28章 狐の残謀と逃げる兎
手柄や名声の為の者ではない。
無闇に命は懸けない。
間者は最小の力で情報を集め、伝達し、極力姿は見せない、覚えさせない事が肝心だ。
なぜなら、自分から情報が漏れるようなら命はないからだ。
そして、
世間に紛れた闇を探る者は闇でなければならない。
「さあっ、ヤってやろーじゃねぇか!」
政宗が獲物を見つけた空腹の猛獣如く咆哮し、
戦闘開始の恫殺(どうさつ)の気を愉しげに放つ。
「中は良いのか?」
義昭が光秀を煽るが、
「中は中、俺には関係ない事です」
靡かない。
「俺は貴方と対峙している。
今は目の前の獲物を捕らえる事が先決です」
そう言って、光秀は刀を抜いた。
「帯刀出来ないはずだ!どうやってっ」
「どうやってでも可能ですよ」
ククク。
忍び込んでいた間者に持たせていた。
抜かりない。
「もう、どんな言い逃れも、誤魔化しも効きませんよ」
光秀の冷たい笑に毒牙が見えた。
※恫殺…おどし殺す。