第27章 遠くの近く
敵兵は1人も見当たらない。
なのに瑠璃は囲まれていると言った。
「敵、いるか?隠れてんのか?」
茶化すように軽口をたたく。
「馬鹿め」
信長も呆れ気味に呟いた。
「違いますよ、政宗…朝は板塀なんてなかったんですよ」
囲むのは敵だけではないのだ。
なのに政宗は、
「なーんだ、敵兵に囲まれていれば良かったのにな」
爛々と嬉鋭に瞳を輝かせ、悠々と笑う。
「今日は刀を持ってないんですよ?」
「その辺で拾えばいいじゃねぇか」
政宗には刀がないことなど、問題はおろか、心配にも及ばなかった。
「板の向こうで囲んでんのは間違いないだろーなー」
あっけらかんと言って囲いを見上げる政宗。
「そろそろ踏み込んで来てもおかしくはなかろう」
信長も愉快げに咍笑(かいしょう)する。
(この人達の気は本気で触れているわ…)
瑠璃は諦めたように嘆息した。
※咍笑…あざけり笑う。