第27章 遠くの近く
光秀は静かな声で忠告する。
「その風流な扇子では、刀に勝てません」
「フンッ、私はお前と刀を交えに参ったのではない。
信長の屍を見に参ったのだ」
執念深い蛇のような眼で、見えない板塀の向こうを見る義昭。
「庵をあらためて参れ」
兵を1人送り込むのを光秀は黙って見送った。
「義昭様っ、庵の中も外も人はおりませんっ」
「何?逃げたのか⁉︎」
知らせを聞いた義昭が血相を変え
「殺し損ないましたか?」
光秀の瞳が嘲憎の色に変わる。
「毒殺しようとした事は分かっております。
味方は良く飼い慣らしておくべきですよ。
クククク…」
「隠れておるに違いないッッ。
全員中に入れ。
中の鼠は見つけ次第殺せ」
義昭が静かな憎悪の声音で命令した。