第26章 京に立っ薫煙
「花は水がなければ、愛でる間もなくすぐに萎れてしまいますわ。それを知っていて、私は飲めません」
「……」
言葉が返っては来ない。
けれど、瑠璃はたたみかける。
「それに、花が入っていれば、他に入っている物もあるかもしれませんし?」
うふふふ…と笑う声に、鋭い視線で、声をかけてきた公家の方を見た。
公家の男は声と共に表情を詰まらせた。
「すぐに、新しい物をお持ちしろ」
苦々げに、誰かが言った。
「っ……くっぅ…す、すぐにっ……」
主催の公家は口惜し気な返事をして立ち上がって、行った。
(異様な程の女の怯え様、男の渋り方も然り)
(ただ花の名を聞かれただけにしちゃあ、あの態度は滑稽だ)
信長も政宗も、改めて運ばれた新しい湯のみの清水をただ見つめた。
瑠璃は湯のみに白い指を伸ばした。
(これにも、毒が入ってれば面白いのにな)
湯のみを手に唇と眼を細め、
独り しなっ と咲(わら)う。
瑠璃の腹の底は哂嗤咲笑※
(しんししょうしょう)
※そしりあざわらう