第26章 京に立っ薫煙
香炉が回ってくる。
右から左へ流される香炉。
それを政宗は後方から目で追っていた。
そして、目の前に並ぶ公家の面々を鋭静視していた。
「清々しいですな、稲」
「春の薫りですな、蓬」
口にする者、無言で流す者様々。
「瑠璃どうだ」
「青い匂いですね、イ草」
何度目かの瑠璃の声。
「名答、イ草」
当てた瑠璃が頭を下げれば、銀の簪の宝石がシャランと涼音をたてた。
「姫はなかなか、お上手ですなぁ」
「武家の姫とは思えませぬ」
「朝廷に輿入れでも考えてはるんやろ」
「信長殿と繋がれたら此方も安泰ですわ」
のっぺりした声が次々と自分を褒め、
笑うのを見て、
(まったく…全員が全員…
……狸と狐がよぉ言いはるわ)
と心の中で悪態をついた。