第26章 京に立っ薫煙
本当に時折り、純真無垢に見せる笑顔。
蝶々を見つけた幼女のような、
春の野の花のような。
(頬が染まって…蓮華草みたいだ)
声もなく、ただ、笑っただけだったけれど、本当に喜んでいるのが感じ取れた。
それなのに、
自分の中に複雑な気持ちがあって、真っ直ぐ心から褒めてやれなかった事に、政宗はモヤモヤした。
「瑠璃、貴様、その銀の髪飾りをいつの間に持ち出したのだ」
「先日?似合うと思って持って参りました」
他の髪飾りの隙間に差し込まれている純銀の一本挿。
磨きが弱く、若干くすんだ銀色。
手の込んだ細工に、七宝玉、瑪瑙、珊瑚、瑠璃、石榴などの宝石が玉にして散りばめられ、
連垂して揺れチリチリと澄んだ音を発てる。
一見しただけでも高価な物だと分かる。
「明からの献上品ですか」
何も知らない政宗が尋ねた。
「ああ、瑠璃が勝手に持ち出したのだ」ククッ
「ひどいですわ、勝手に持ってゆけ、と仰ったじゃありませんか」
瑠璃は眉を上げて少し笑った。
「美弥には言ったな」
「えこ贔屓は感心致しません。
女は平等に扱わなければ」
「貴様は、政宗の女 であろう。クック」
「当たり前、それは大前提で御座います」
ふふふ と楽し気に笑う瑠璃。
けれど、瑠璃は、ただ、
『貴様は政宗の女であろう』と言う
その台詞を信長の口から言わせたかっただけだった。
何故なら、政宗が聞いているから。
政宗が美弥の代わりに信長と香合わせに出席する事に、色々、思っているのを瑠璃も気にしていたから。
(機嫌、なおるといいな。ふふふ)