第25章 強く在れ
そして、尚、優しくも力強い声音で語る。
「家康様…過去は過去です。
大丈夫、もう、家康様は力の無い幼子ではありません。
未来を切り開ける力をもった、強い人です。
大丈夫…」
「瑠璃…」
瑠璃の背に回した家康の腕に力が籠る。
(判らないけど……童女の頃、アンタも傷ついたんだって、ことは、判る……)
「大丈夫…大丈夫ですよ」
そして、瑠璃はただ、そっと、包むようにふんわりと家康を抱きしめて、
先程とは打って変わって、
深い慈愛の声音で詠う様に言った。
(傷は似ているのに、君は、本当に強い)
家康の心の棘を抜く。
(たくさん刺さってるなら、少しでも抜ければ良い)
瑠璃は1度だけ、そっと家康の背中を撫でた。
「おい、家康。
今日、弓術場に行ったか?」
「いえ」
夕刻、秀吉が顔を出した。
「何かありましたか」
「弓の弦が切れたんだが…どうも………」
秀吉の話では、弦は刃物でギリギリまで傷つけて切れるよう工作がしてあった。と言う。