第21章 文蛍
「蛍を追いかけて木にぶつかった政兄が鼻血を出した事とか、私が川に落ちそうになって間一髪、兄様達に助けられた事とか、楽しいことばかりです。
今思い出しても笑っちゃう」
昔の事を瑠璃は可笑しく話して笑う。
もう2度と会う事のないだろう家族の話。
(馬鹿だな)
「兄上に会いたいだろう」
「そうですね、出来るなら?」
(そう思うのが、寂しいって事だろうが)
瑠璃は本当に自分の気持ちに鈍い。
(他人の気持ちは解るのに、
自分の感情の名前が分からないなんて)
政宗は内心、腕組みして唸りたい気持ちだった。
政宗はポンっと瑠璃の頭に手を置いて言った。
「寂しいんだよ」
いつもの軽い口調で。
すると瑠璃が同じように軽い口調で応えた。
「違いますよ、懐かしいんですよ」
政宗は呆気にとられた。
はっはははは…
「これは…そうか…
…ああ、そうかもしれないな」