第3章 政宗と姫の或る日 其の弐
政宗の手が触れても、唇が触れても瑠璃は微動たりたもしない。
感覚のない人形の様に、フルッともしない。
…けれど……
真っ直ぐ前を向いていた後頭と、
肩だけが、項垂れ、萎むようにだんだんと竦(すく)んでいった。
政宗が、優しくそっと慈しむ様に触れれば触れる程、傷の痕は濃いのだと感じた。
「政宗以外誰が見る訳じゃないから…
痕なんて、気にする事もないんですけどね」
気持ちを振り絞って自嘲気味に笑う。
痛々しいほどに鮮やかな嘲笑に、
政宗が慰めの言葉をかける。
「それでも気になるのは、やっぱりお前が女だからだ。
でも、この傷、お前が自分を護り通した傷だろ。感傷的になるようなもんじゃねぇよ」
政宗がそうは言っても、流石の瑠璃も、
「気分的に滅入ってしまいますね」
とため息を溢した。
「そんな気分、吹き飛ばしてやるよ」
そう言うと政宗は、裸の瑠璃を背中から抱きしめた。