第11章 西国の2人
「俺を信じるのか。お前は馬鹿だなー…」
光秀は緩やかな衝動に突き動かされ、
心を奪われて、
引き寄せられるように……
口付けていた。
重なった唇の柔らかな感触、
温かい温度、そんな肉欲的なことより、
触れる唇から伝えるように、伝わるように、
愛おしい想いを感じた。
(愛おしくて…)
「俺も、大切に思っている」
抱き竦めた。
よく意味が分からない程、大切に思う。
これ以上、何かしたいとか、
触れたいとか、そんな気は全く起きない。
情欲的なものは湧いてこない。
軀で繋がりたい訳ではない。
けれど、
胸の中に納めてしまいたい、そんな気持ち。
抱きしめて、抱きしめたい。
心の奥の深い処がどこか似ているからだろうか。
同心、共鳴、同情。
自分を投影しているような、
随分前に殺してしまった自分を思い出すような。
諦め、弱さ、混沌、心緒虚忍。
(この女の深い傷みをー……)
(この人の深く隠した真をー……)
包み、掬い上げたい。
※心緒虚忍…しんしょきょにん/心の動き、心の在り方をいつわりしのぶ。