第10章 猜疑の船旅
「…先に近づいたのは、そちらはんやありまへんか」
はんなり と、それでいてキッパリと言い切られ、元就が眼を眇め、ギッと奥歯を噛み締める。
笑ってはいないのに、嗤っているような抑揚の声に、苛立ちを覚える。
「つっ…くっそっっ…ここは俺の船の上だぜ?よくもそんな口がきけたもんだ」
元就は失笑とともに、あっさりと懐剣を瑠璃の手から取り上げ、放り投げた。
瑠璃は力では到底勝ち目がない。
「その上等な着物、全部剥ぎ取って、
化けの皮も剥いでやるっっ」
瑠璃の上を跨いで、手を甲板に押し付け、
身動きが取れないようにし、
元就が勝ち誇ったようにもう1度笑った。
けれど、
「そんなに疑うのでしたら、
好きになさって結構ですわ」
瑠璃も負けじと上品な笑顔を作って見せる。