第10章 猜疑の船旅
その隙に瑠璃は帯の間から懐剣を取り出し、柄に収まったまま、喉を突き押した。
「…チッ、見かけによらず気の強ぇ嬢ちゃんだぜっ。
ん、で、何で俺に近づいた」
元就は瑠璃の抵抗にはまったく動じず、再び威嚇の気を放ち、重い声音を瑠璃に投げ付ける。
瑠璃も元就を睨みつけたままだ。
一触即発……ーー。
その状況を物影に隠れて、じっと窺っている者がいた。
(万事窮す、だぞ。政宗)
クククク……
(どうする?)
面白そうに、ではなく完全に面白がっている光秀。
「…先に近づいたのは、そちらはんやありまへんか」
柔らかな京訛りの強弱の中に、
巧みに小苛を含ませた瑠璃の声が聞こえた。
(怒ったふりでどうする)
光秀が苦笑しながら静観する。