第10章 猜疑の船旅
出港してから暫くは風も潮もよく、
進みも良かったが、午後から風止まりで思ったより進まなかった。
「播州泊まりか〜」
元就が少々残念そうな口調で、斜陽を睨む。
「酔わない船は快適ですね」
「!」
(いつの間に)
気付かないうちに、背後まで来ていた瑠璃に元就が驚く。
(気配がない…)
優柔と微笑している瑠璃を元就は緊酷な表情で見た。
「元就様?」
目の前の女は、自分の心を騒がせている癖に、恨めしいほど清麗としている。
それが引っかかる。
(この女っ…)
「キャァっ」
元就に突然、力任せに腕を掴まれ身体を羽交い締めにされて瑠璃が叫んだ。
※緊酷…きんこく/張りつめて厳しい。