第2章 エンカウント
ドアが閉まります、
ドアが閉まります
アナウンスと同時に目の前の電車のドアが閉まり、私たちは棒立ちのまま。そのまま発車する電車をあとに、ふう、とため息をつく彼の腕を離す。
『あの…』
「自動販売機があそこにあるから、それでいいか。」
『あ、はい』
…
…
『お水でいいですか?他のにしますか』
「いや水でいい」
『わかりました』
110円を自動販売機に入れて水を買うと、彼にそのまま手渡す。
『ありがとうございます、助けてもらって』
「いや、いい。…本当にもう大丈夫なのか」
『はい、よくあるんで。もうそろそろ落ち着きます』
先ほどのベンチへ向かい腰を下ろすと、彼もまた一つスペースを開けて座った。
「よくあるのか」
『はい。個性の副作用なんで…特に今日は使いすぎちゃったし』
「…よく見るとボロボロだな」
ジロジロと見たあと、不思議そうに聞く彼を見てさきほどの切島くんを思い出す。
熱く元気な彼とは違い、目の前の彼は冷静でどこか冷たい瞳をしている。二人とも助けてくれた優しい人たちには変わりないが、だいぶ対照的だ。
『あ、えっとー…実は雄英の実技試験帰りで、』
ボロボロで情けないな、なんて言いながら頭を軽く掻くと、
「雄英…」
と、彼が意外そうな声色で一言溢す。
「いくのか雄英」
『え、まあそりゃあ合格できたら、ですけど…』
「…そうか」
『はい』
そこで会話は途切れてしまい、彼がまた空を眺める。
私もこれ以上言う言葉も思い浮かばないので、そのまま一緒に空を眺めた。
無言の時間が二人の間に流れる。
しかしゆったりとしたその雰囲気は意外に心地がよかった。
すっかり深いオレンジ色になった夕焼け空が辺りを包み、
穏やかな風が流れる。
朝から緊張しきっていた体からやっと力抜けた気がして、ゆっくりと瞬きをする。
隣にいるのは名前も知らない赤の他人だけれど、なぜかひどく落ち着いた。
『あ、電車』
しかしその穏やかな時間は、勢いよく走ってきた電車に遮られる。
すくっと立ち上がった彼に私はもう一度お礼を言い、頭を下げた。
「じゃあ、またな」
『え?あ、また…』
別れを言って電車に乗り込んだ彼を見届けて、
私ははて、と首をかしげながらそのまま反対ホームにきた電車で今度こそまっすぐ家へと帰った。
…
…