第22章 コンフュージョン
◇◇
朝、親父に言われた時間通りにロビーへと向かえば、
先に希里が到着していた。
しかし遠目から見える彼女の背中はどうしてか嫌に小さく、
縮こまってる。
まるで迷子の子供のような彼女の姿に、嫌な予感が走る。
「おはよう…」
『おはよう。』
「お前…大丈夫か?真っ青だぞ」
『何が?私は別に平気』
彼女は青ざめた顔で、嘘くさい笑顔を見せる。
目の奥は光が感じられず、全く大丈夫な様子ではない。
「何があった」
『だから、なんのこと?』
「…」
昨日とは全く違う彼女の様子に、どう声をかけたらいいか戸惑う。
自分は人とろくに関係を築いた経験はないため、こういう時の対処方法が分からない。
しかし、そんな彼女を放って置けないほどに、自分はいつの間にか希里を贔屓している。
あれこれと考えても埒が開かないと、俺は決心し彼女の頭に手を伸ばした。
「俺は…心配だ、お前のこと」
『やめて』
心配で口にした言葉は彼女には届かず。
勇気を出して差し出した己の手は、簡単に振り解かれて。
すくっと立ち上がった彼女はこちらを見向きもせずに、到着したエンデヴァーの元へと歩いて行ってしまった。
「…」
彼女にとって、俺は頼れない存在なのか。
自分の無力さに愕然としながら、振り払われた手を眺める。
(希里…俺はお前のことも、助けたい)
彼女が何に日々怯えて、どんな感情に囚われているのか。
(それが何にしろ、俺はお前を見捨てない)
行き場をなくし手を握りしめ、ふと顔を上げると声を荒げる親父の姿に気がつく。
「ダメだ、お前残れ」
『どうしてですか、私は大丈夫です』
「そうには見えないから、言っているんだ。今日一日は部屋に戻っていろ」
『平気です!私は、』
「自分の体調管理もろくにできないのか、俺の足を引っ張るんじゃない。いいか、これは命令だ」
冷たくエンデヴァーが言い放てば、希里は感情のない表情で俯いた。
親父の言い方には感心しないが、今回ばかりは彼の言う通りだと思った。
あんな様子の彼女は見たことがないし、このまま外へと連れ出すべきではないと自分ですら分かる。
『…わかりました。』
そう一言だけ言い残せばこちらへと振り返ることもなく、希里はエレベーターへと乗り込みこの場を後にした。