第10章 コンバット
『そこの女子トイレで着替えてもいいかな…さすがにこの格好で帰れない』
「あ……も、ももちろん!!!??」
未だヒーロースーツをきていた私を凝視したかと思えば、突然顔を隠しながら照れ始める彼。
そんなに驚かなくても、と必要以上に動揺する彼に首をかしげながら、私はすばやくトイレで制服へと着替え直した。
着替える途中に負傷していた腕を確認すれば、しっかりと包帯が巻かれている。
しばらくしたらすぐ治るだろうが気をつけなさいと、リカバリーガールに忠告されたのを思い出し、己の頼りない腕を見下ろした。
(傷、そんなに早く治るんだ…
せっかくだったら頭から飛び込めばよかったかな…)
◇◇
しばらくして制服に着替えた希里が女子トイレから出てくれば、
『おまたせ』
と言いながら微笑んだ。
どこか切なそうに笑う彼女の笑みを見れば、いやでも心臓が高鳴る。
しかし少しでも邪な感情を抱いてしまったことへの罪悪感で視線を落とせば、再び彼女が声をかけてきた。
『どうしたの?…具合どこか悪い…?』
「ち、ちがうよ!!…帰ろうか」
『うん』
再び横に並び階段を下りながら、僕はやっと意を決して口を開いた。
「希里さん…あの時僕をかばってくれてありがとう。…そしてごめん」
『…え?』
「僕が軽率に突っ込んでいかなければ、希里さんは腕を怪我することなんてなかったんだ。僕が頼りないから、君にあんなことさせてしまった…本当にごめん」
『緑谷くん…顔あげて』
「…?」
彼女の言葉でずっと下を見ていた視線をあげれば、希里の薄く透き通った瞳が僕をしっかりと見ていた。
ひどく真剣な顔つきの彼女が僕に向かえば、ゆっくりと話し始めた。
『あのね、緑谷くんをかばったのは私の勝手な判断でやったこと。君が頼りないから飛び込んだんじゃなくて、どうしても、失いたくないから…緑谷くんがいなくなるのを想像して、耐えられなかったから。だから図々しくもあの場に飛び込んじゃった。…だから君のせいじゃないよ』
「希里さん…」