第10章 コンバット
『また失ったら……初めてできた仲間までなくしたら、私どうすればいいか分からない。だから自分のために飛び込んだようなものだよ。緑谷くんが謝ることなんて一つもないし…むしろ、私こそごめんなさい。君が思うようなヒーローじゃないんだ、私は…』
話しながら彼女の瞳に少しずつ涙が溜まっていく。
薄暗い校内でキラキラと光り出す彼女の瞳は脆く悲しく、同時にひどく美しく思えてしまう。
「希里さんが謝ることなんて一つもない。あの時は僕は君に本当に助けてもらったんだ。…それが君のエゴからのものでもそうでなくても、僕にとってはそれが真実なんだ」
『…』
「だから、謝らないで。…僕ももう謝らないから…ありがとう希里さん」
『…うん』
今度は穏やかな沈黙が二人の間を流れ、希里が涙の溜まった目をこする。
そういえば、とポケットに入っていたハンカチを彼女に差し出せば、希里は驚き、すぐさま恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
『泣いてないから…大丈夫』
まるで強がる小さな子供のような彼女の姿に思わずクスリと笑えば、彼女にバレてしまう。
もう先行くから!と歩き出してしまう彼女を、僕は自分の高鳴る鼓動を抑えるように彼女を追いかけた。
「…あ!デクくん!トバリちゃん!」
「二人とも無事かい!」
『お茶子ちゃん…飯田くん…』
「二人とも…待っててくれたの!?」
校内を出ればなんとそこには麗日さんと飯田くんが、僕たちを待ってくれていた。思わぬ再会に、感激で思わず胸がいっぱいになりながら涙ぐめば、希里へと振り向く。
しかし横に立っていた彼女の横顔はまた、切なそうな、痛みを隠してるような表情で眉を歪ませていた。
(え…?)
ぎゅうっと心臓が掴まれたかのように締め付けられる。
すぐさま僕の視線に気づいた彼女はごまかすように笑顔を見せれば、先に彼らの元へ走っていく。
今思えばきっとあの瞬間だったのかもしれない。
僕が彼女に恋をしたのは。