第10章 コンバット
『…』
「さすがだ…俺たちの出る幕はねえみたいだな」
「緑谷、ここは引いたほうがいいぜもう。かえって人質とかにされたらやべえし!」
一見勝利を収めたかのように見えるその光景。
しかし僕にはわかった、
わかってしまった。
オールマイトの残り時間はもうとっくに切れていて、彼の頼もしい言葉すべて虚勢だということに。彼の体から出る砂埃に混じった蒸気が、彼の限界を物語っている。
僕だけが気づいてしまった、
今度こそのピンチに。
さっきまで癇癪を起こし続けていた主犯格らしい男は、どうやらまだ諦めた様子もなく。いつ飛びかかってきてもおかしくないヴィランに、オールマイトも動けないまま依然として仁王立ちのまま。
そうしてタイミング悪く、気絶していたヴィランたちも少しづつ意識を取り戻し始めたようで。
「主犯格はオールマイトがなんとかしてくれる…俺たちはほかの連中を助けに行こうぜ…!」
『うん……緑谷くん?』
それでもその場を立ち去ろうとしない僕に、後ろから希里が不安そうな声色で尋ねてくる。
虚しくも彼女の声は届かず、ただひたすらと僕は自分の足が震えるのを感じた。
オールマイトはもう限界を超えている…
もしこれであの男に襲われでもしたら彼はどうなる。
(だめだ、今度こそ)
脳無の仇と叫べば、手の男はオールマイトへとめがけ走り出す。
(僕が、守らなくちゃ)
『緑谷ァ!!!!!』
ワンフォーオールの力で飛び出せば、奥から彼女の声が聞こえた。
それでも止まれない僕はそのままワープゲートの体部分へとめがけ拳に力を入れる。
(あそこを狙えば、飛ばせるーーー)
「オールマイトから離れろォ!!!!!」
しかし僕の叫びも虚しく、再び僕の前にあの暗闇が突如として現れて。瞬時に何者かの手が奥から浮かび上がれば、そのまま僕の顔へと伸びる。
(この手は、あの時の!?)
さっき相澤先生の肘をいともたやすく粉々にしたあの手が、僕を捉えようとする。
しかし今頃避けようにも、時すでに遅い。
だめかもしれない、
そう覚悟を決める僕の横に、
突然空気を切るような音と共に何かが横に現れる。
『緑谷!!!』