第8章 ホットヘッド
「…ああ?」
彼の肩に右手をおけば、私は一気に彼と私自身を教室に”飛ばした”。
「…ああ!?!」
すでに空になっていた教室で、爆豪の大きな怒鳴り声が響く。
「てめえ勝手に俺に個性使いやがったな!?」
『おとなしくボタンを直させてくれたらもうやんない』
「てめぇ…俺がこんなんで大人しく従うと思うんじゃねえぞ!」
『何度だってここに飛ばすよ。一度触ったものならしばらく触らなくても飛ばせるから』
「…」
嘘だ。
手で触っていないと私の個性は発動しないが、それを知らない彼にはハッタリとしてちょうどいい。
ここまでくるとただの意地の張り合いで、絶対に彼を逃したりするものか、と私は爆豪の目をしっかりと捉えた。
「…ッチ没個性が」
『その没個性に翻弄されてるのはどっちよ』
「てっめえ…いい性格してるじゃねえか」
『爆豪くんに言われたくないなあ。ボタン、それだけ直させてくれればもう関わらないから』
「…」
『…そんなにジッとできないの?』
「ああ!?できるわクソが!」
私に怒鳴れば突然ドスッと背もたれに腰掛ける彼。
突然な出来事に思わず え?と混乱し硬直してしまう。
「なにボサっとしてんだおい、直すんだろ?」
『あ、ああうん…』
さっきまであれほど文句を言っていたくせに、やるとなったら急に素直になる彼に思わず拍子抜けしてしまう。
調子が狂うが、彼が考えを変える前に横にあった椅子を近くに引きずり、鞄からミニ裁縫セットをとりだした。
…ん?まてよ。
椅子に腰をかけ、彼に向き合えば突然我に帰る。
今更だが、彼のシャツのボタンを縫い直すにはシャツを渡してもらう必要がある。
しかしこんな教室のど真ん中で上半身裸になってなどとは言えず、なられても正直困る。
ということは彼が着たままのシャツに縫い直さなければいけないことになる。
正直それは考えただけで気まずいが、ここまで粘った挙句にやっぱりできないなんて爆豪に言ったら、想像するだけでゾッとする。
覚悟をきめて、私は彼に近づき問題のシャツをつかめば用意してあった針でボタンを縫い始めた。