第8章 ホットヘッド
「…」
『…』
彼の息がかかるほど近くなった距離に若干戸惑いながらも手元に意識を集中させる。これで誤って彼を刺したりなんかしたらきっと殺されるんじゃないか。
驚くほど静かになった爆豪と、そのまましばらく沈黙の中せっせと手を動かせば、なんとかボタンは完成した。
『よし、ほら早かったでしょう』
「ハッ、こんなの俺がやったら秒だわ」
『ボタンのつけ方わかるの?爆豪くん』
「んなもん誰でもできるだろうがよ!」
『え、意外だなあ』
「てめえ喧嘩売ってんのかァ?」
裁縫セットを鞄に戻せば彼は私など御構い無しにズケズケと教室をあとにしようとする。
『あ、ちょっとまってよ爆豪くん』
急いで彼を追いかければまた怪訝そうな顔で睨みつけられてしまう。
「テメェー、ボタンつけたら関わらねえんじゃなかったのか?」
『私もそう思ったんだけど、さすがに爆豪くん同じクラスだし全く関わらないのはちょっと無理があるかなと』
「ハァァァア?テメェ、バッカじゃねえの?」
『さっきからテメーテメーうるさいな希里だってば爆豪くん』
「指図すんな!あとテメーこそ爆豪くん爆豪くんうるせえんだよ!」
彼が手のひらで小さな爆発を起こしながら、私を威嚇する。
しかし正直ここまでくると小さな子犬が必死に意地張っているように見えてきて、最初の恐怖心はもうどこにも無くなってしまっていた。
『じゃあなんて呼べばいいの、下の名前?なんだっけ?』
「ぶち殺すぞ…」
『じゃあ爆豪くんでいい?』
「せめてくんを取り上がれ気色ワリィ!」
『じゃあ爆豪。私は希里トバリね』
「シネ」
正直こんな人間にあったのは初めてで、ここまで失礼極まりない人だとこちらまで気を使うのが馬鹿らしく思える。
最初こそ気をつけてはいたが、爆豪にはいちいち言葉を選ぶ必要を感じない。それが果たしていいのか悪いのかわからないが、正直楽といえば楽だった。
『駅まででしょう、一緒にいくよ』
「ついてくんなモブが!」
『ねえなにをそんなにイラついてるの?いつもそんななの?』
「うるせえ黙れシネカスモブ女!」
そのまま私たちはこっちが一方的に質問して暴言を吐かれるだけの、全く会話らしくない会話を繰り広げながら帰路へと歩いて行った。