第8章 ホットヘッド
そうと決まれば話が早い。
そっと指で私の髪が絡まっているボタンに触れれば、すぐさま私のもう片方の手に移動させる。
そしてボタンが消えた今、私の髪と彼がやっと解放された。
『よし、とれた!』
「遅えんだよモブが!おい、てめえの個性でここから飛べねえのか」
『え、でも私だけ逃げるなんてだめだ』
「ハァ!?頭湧いてんのかカス!」
『カスじゃなくて希里だってば!てか耳元で叫ばないでうるさい!』
「テメェいい度胸だなアァ!?喧嘩売ってんなら買うぞ!!」
『こんな状況でなに言ってんの!』
この状況でかかなり興奮しているせいか、礼儀もクソも忘れて思わず彼と睨み合う。
しかし彼はよく知りもしないくせにカスやらモブ女やらひどい蔑称で呼んでくるわ、怒鳴ってくるわまともな奴じゃない。
確かに髪が絡まったことは申し訳ないが、そんな風に言わなくてもいいじゃないか。この人は本当にヒーロー志望なのか?
すると突然奥の方の壁にドンッと大きな音がすれば張り上げた声で、
「みなさんダイジョーブ!」
と聞き覚えのある声が響いた。
…
…
なんとか飯田くんのおかげでパニックは収まり、やっと身動きが取れるようになってほっと胸をなでおろす。
『ふう、やっとか…』
「ッチ!」
『あ、まって爆豪くんボタンが』
「んなもんいいわ!ついてくんじゃねえ!」
『ええ…』
やっと動けるようになった矢先、不機嫌な態度で向こうへと歩き出してしまった爆豪はとうとう私の声に振り向いてはくれなかった。
いったいなんだったんだ…
私は行き場の無くなったボタンをポケットにしまえば、やっと緑谷くんとお茶子、そして壁から降りてきた飯田くんとなんとか合流した。
それから午後の授業が始まる前、緑谷の提案により再び飯田が委員長として抜擢され、無事その日の授業は幕を閉じた。