第8章 ホットヘッド
大声で怒鳴られれば真後ろへと振り返る。
見上げればそこにはつり上がった目にツンツンヘアーの、身に覚えがある人物がいた。
『爆豪、くん?』
「てめえあっちこっち動き回んじゃねえ!髪の毛が絡まってるだろうが!」
『っえ?』
そのまま彼のシャツに目を落とせばどうしてか私の髪が彼のボタンに絡まっているのが分かった。
これじゃあ私も爆豪も、思うように動けないわけだ。
『ごめん、今とるから』
「早くしろカス!」
『ちょ、ちょっと暴れないで。とれないから』
「暴れてねえ!周りのカス共が俺を押し回してるんだよ!」
『このままじゃむり、もう少しだからそこ壁に移動して!』
「俺に指図すんなモブ女ァ!」
怒鳴り散らかす爆豪と共になんとか壁側までたどり着けば、体制を立て直すためか彼が勢いよく壁に手をつけた。
そうして私はそんな彼と壁の間にすっぽりおさまってしまい、これが俗に言う壁ドンか…と混乱した頭でつい考えてしまう。
「オイ早くしろや…!」
『あ、ごめん。ええっと』
よく知らない人とこんな至近距離でつい緊張してしまい気づかなかったが、どうやら彼は私が動きやすいように私を囲い守っていた。
意外と紳士的な行動に驚きながらも、すぐさまボタンから髪を解こうとする。しかしこれが思った以上に難しい。
髪の毛ならちぎった方が早いかもと思ったが、面倒なことに多くの髪の毛が絡まっていてとても手じゃ千切れそうにない。
ほどこうにも状況が状況でうまく動けず、手元が危うい。どんどん苛立つ爆豪に焦り、頭を回せばふと思いつく。
『あ!ねえ一回だけこのボタン外していい?!』
「ハァァ!?」
『ぶち抜くんじゃなくてテレポートするから綺麗に取れるし、あとでちゃんと縫い直すから…!』
「…そうかてめえテレポート女か。ッチ!さっさとしろカス!」
『あとでちゃんと直すね!あと私テレポート女でもカスでもなくて、希里トバリ!』