第8章 ホットヘッド
緑谷が顔を上げれば、即答した私たちの顔をまじまじと見た。
「緑谷くんとここぞという時の胆力や判断力は、他を牽引するに値する。だから君に投票したのだ」
「君だったのか!?」
『うん、正直最初は可愛くて優しい子だなって思ってたけど。あの対人訓練でよくわかったよ、緑谷くんは強いし、なんだか人を引っ張る魅力がある』
「か、かわ!?っていうかもしかしてだけど…希里さんも?!」
『うん、緑谷くんに入れたよ』
特に隠す必要もなかったので真実を伝えれば、はわわと大げさに真っ赤になる緑谷をみて思わず笑ってしまう。
ヒーローを目指す人にかわいいなんて思うのは失礼かもしれないけれど、こればかりはしょうがない。
それから私たちは飯田くんの実家、ヒーロー一家の話しを聞きながらお昼ご飯を食べていれば、突然学校中に響き渡った警報に話しを遮られてしまった。
「警報!?」
『えっなんで…』
「とにかく逃げた方がいいんかな…?」
「い、いこう!」
たちまちパニックに包まれる食堂の出口は、まるで満員電車のごとく人の波で思うように進まない。
これじゃ非難どころかもっと混乱するだけだ、しかしいったいどうすれば。
混乱の中必死に頭を動かすが、突然前からの人混みに勢いよく後ろに押されてしまい、一気に三人とはぐれてしまう。
「トバリちゃん…!」
「希里くん!」
私を呼ぶ声がどんどん遠ざかり、私はなすすべなく押されていく一方。
(テレポートでみんなを移動すれば、いやでもこんな大人数どうやって…
まずできたとしても、いったいどこに移動すればいいかもわからない)
何度考えてもらちが明かない上、どんどん騒がしくなっていく人の渦で目が回りまともに立っていられなくなる。普段人混みに慣れていないためもあり、だんだんと呼吸が苦しくなる。
(やばい、このままじゃ…とりあえず壁側に寄ろう)
そう思い横へと移動しようとすれば、
突然髪の毛がなにかに引っかかったような鋭い痛みが走った。
『あ、いたっ!』
「オイ!」