第5章 イントロダクション
希里さんはその表情と立ち振る舞いで高校生にしては落ち着いていて冷静沈着、と勝手に思っていたがどうやらそんなこともないらしい。昨日からまだどこか緊張していたらしい彼女は、今は会話を続ければ表情がころころ変わり口調もより砕けていく。
彼女が僕たちと一緒にいて少しでも安心したことに、つい安心し笑みがこぼれた。
そんな僕を見て不思議そうな顔を向ける彼女と目があうと抑えていた鼓動がまた大きく高鳴る。
深い茶色がきらり、ビー玉のような目に自分が写っているのが見えてまたさらに動揺してしまう。この焦りが感づかれる前に、僕は口を動かした。
「そそ、そういえば!個性!希里さんのテレポートの話!」
「あーそういや!聞きたい聞きたい!」
『ああ、うん。いいよ』
どうやら気づかれずになんとか話題を変えられたことにホッとしながらも、実は昨日から知りたくてうずうずしていた彼女の個性の話に耳を傾けた。
どうやらそれは自分だけではなく飯田くんも麗日さんも同様に目を輝かせ、今か今かと身を乗り出した。
その期待に応えるべく、再び希里は口を開く。
『えっと、私の個性名はテレポート。その名の通り、自分自身か私が直接この手で触れてるものを移動できるの。一度の最大移動距離は1kmほど』
そのまま彼女は自身の手のひらを見えるように開き、右手に乗っていたお箸をなにも乗っていたかった左手へヒュンと”移動”させた。
「すごい!!」
思わず声が漏れる。
それを見て彼女はニコリと笑えば、そのまま眉をひそめた。
『…でもみんなが思い描くような好きなところをピョンピョン飛び回ることは難しくて。距離が遠く、資質が重くなればなればなるほど次の移動へのタイムラグが少しづつ伸びるの。連続して何度も飛べばまたそれでもタイムラグは伸びていくし。
…おまけに酷使しちゃうと吐き気とか頭痛とかの副作用で最悪意識飛ばすし』
「なるほど、やはり万能ではないんだな」
『うん。小さい頃はいつもコントロールできなくて、知らないところにテレポートしちゃったし…。まともに扱えるようになったのは中学生の頃だったから、わりと最近なの』