第4章 クァークス
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ワンフォーオールをまだまともにコントロールできていない緑谷にこの個性把握テストはあまりにもは過酷だ。しかしどんなに考えても時間は待ってはくれず、次々と第一種目を終わらせていくクラスメイトたちを見ていると後ろから涼しい顔をした希里が寄ってきた。
『あれ、私の番?』
どうやら名前を呼ばれたことに気づいた彼女に、そうだよと教えてあげると彼女はそのまま急いでスタート地点へと駆け出した。
(そういえば希里さんの個性聞けてなかったな…)
焦る気持ちとは裏腹に、ヒーロー志望のクラスメイトたちの個性をこんな間近で見ることはあまりないため、つい好奇心が勝つ。
希里を見るためもう少し前へと駆け寄り視線を彼女に向ける、がしかし緑谷は彼女に違和感を覚えた。
50メートル走だというのに、クラウチングスタートどころかなぜか希里はスタート地点で仁王立ち。
(いったいどんな個性なんだろう?
走らなくてもいいのかな…例えばどんな…)
考え込んでいると、緑谷は自分だけではなく周りのクラスメイトたちも自然と彼女に視線を向けていることに気がつく。
仁王立ちの不自然な姿もそうだが、どこか浮世離れしている雰囲気の彼女は自然と目を惹きつけてしまうなにかがあるらしい。
「イチニツイテ、ヨーイ…」
そうこうしているうちに測定ロボットがスタートを言い始める。
「スタートッ!!「0秒00」」
が、その掛け声と同時にまたゴール地点のロボットの声が重なる。
(故障か?)
見ていた誰もがが不思議に思いゴール地点へと視線を向けると、すぐさま空気が変わった。
さっきまでスタート地点に佇んでいた彼女は、いつのまにかゴール地点にいる。
嘘、なんだいまの、などと声が騒めく中、また涼しい顔でこちらへと彼女は歩いてきた。
どうやら瞬きも追いつかないほどのスピードで彼女はスタート地点からゴールへと”移動”していたのだ。
『次の種目ってなんだっけ…』
「ね、ねえ今のってもしかして…」
まるで何事もなかったかのように訪ねてくる彼女をみてつい声が漏れてしまう。