第4章 紫苑の空
ヒペリカムを植えた半月後。
「お母さん!お母さん!!」
迎えに来た軍の人間に取り囲まれるランタナに、ツンベルギアが呼びかける。子供の力で大の男に適うはずも無く、簡単に取り押さえられたツンベルギアを、ランタナは見ようともしない。
「お母さん!どこへ行くの?この人たち、誰なの!?」
「娘さん、ですか」
彼らは昨日まで中佐の部下だった。
普段からどれだけ世話になっていようと、階級社会では上層部の意見に逆らえない。
「いいえ。私に娘はおりません」
「…ぇ………」
「しかし、お母さんと…」
「知りません。私の子ではないし、私に娘はおりません」
「お母さん!!!!」
「参りましょう」
ツンベルギアを1度も振り返ることなく、ドアが閉じられる。
たった1人で遺したことをたとえ恨まれたとしても、我が子を道連れにするよりはマシだと、夫婦で話し合った結果だった。