第4章 紫苑の空
ヴァイオレットへ
この手紙を開ける頃、ヴァイオレットはどの辺りにいるのかしら?
ヴァイオレットに、名前はその人の事を大切に想う気持ちが込められていると教えられた時、私は何て独りよがりなんだろうと思ったの。
母に置いていかれた日のことは、いつも夢に見るの。
どうして置いていったのか、どうして娘はいないなんて言ったのか。それは私が要らない子で、愛されていなかったからなんだって思うようになった。
でも、違った。きっと違うのよね。
父も母も、私が要らなかったんじゃない。愛してなかったんじゃない。私に生きていて欲しかったから。
そうだよね、ヴァイオレット。
父がどうして責めを負ったのか、その理由は知らない。
だって、それが知りたくて屋敷中を何度も探してみたけど、その事が分かるものは何もなかったの。
………何だかよく分からない手紙になっちゃった。
ドールの仕事って凄いのね。
自分でさえよく分からない心を、ちゃんと手紙にしてくれるんだもの。自分で書くと、本当に取り留めもない手紙になっちゃうわ。
ヴァイオレット。
私はもう、卑屈になったりしない。
他人を試すようなこともやめる。
私は、私がもらった『愛してる』をちゃんと全うしたい。ツンベルギア・アングレカムとして生きていくわ。
両親の想いも、私の心も、救ってくれてありがとう。
ツンベルギア・アングレカム