第4章 紫苑の空
わしはヴァイオレットの手を離し、涙と鼻水でグズグズと汚い顔を、袖で拭いた。こんな老いぼれが泣いたところで、何も変わりゃせんのにだ。
鼻をひとつすすって、まだ溢れてくる涙をゴシゴシと拭う。
あの子は、親父が作った義手をいつも着けとった。
やっと喋り出した歳頃じゃから、重たくて嫌がった。それでも、親父は着けさせた。幼い頃から着けさせた方が、何かと良かったんじゃろう。
『にぃーちゃ!にぃーちゃ!』
そう言って、わしの後をついてきた妹は、足を滑らせて川で溺れた。慌てて親父を呼びに言ってる間に、妹は沈んだ。助からなかった。
鉄の義手はやはり重すぎたんじゃと思う。
思えば、親父のトンカントンカンが増したのはその頃からかのぅ……。
あぁ……そうか……
じゃから、誰かのいつかきっとなんじゃな…親父よ。
もう誰も、あの子の二の舞にさせんために。
「………わしは、生きる…」
「はい」
カシャンカシャンカシャン…