第3章 ヒペリカムの咲く庭で
カシャンカシャンカシャン、ギギギギ、カシャンカシャンカシャン…
もう一度、両親への手紙を書いた。
私は、報告書のような手紙を書くヴァイオレットしか知らなかった。今の彼女が、あの頃と変わっていなければ書けなかった手紙だ。
死んだ人に手紙は届けられない、と断られていたら、私はずっと楽でいられたし、ヴァイオレットを叩くこともなかった。
カシャンカシャンカシャン、カシャンカシャンカシャン…
ヴァイオレットが変わっていてくれたから、私の本当の心をすくい上げてくれた。
何度も何度も言葉につまる私を待っていてくれた。そして書き上げた手紙は、とても丁寧に折り畳まれて、そっと封蝋を押された。
「…ありがとう、ヴァイオレット」
受け取った手紙は暖かくて、抱きしめるとそこに両親が居てくれるようだった。
「……お嬢様。ご両親は、生きておられます」
「ぇ……」
「そう教えてくださった方がいるのです。心の中で生きている。だから決して忘れないと」
「……っ、うん…っ、わたし、わすれない…っ」
またヴァイオレットが滲む。
お父さんに、泣き虫だなと笑われた。お母さんは、優しく抱きしめてくれた。
2人とも、私の中で生きてるーーー
「…っ、そうだ、ヴァイオレット」
「はい」
「よかったら、もう一日だけ泊まっていってくれない?お礼がしたいの」
「……料金はお支払いいただきます。…それに、依頼以上の業務は受けていません」
「ダメ、よね…やっぱり……」
「……ですが、この時間ですともう、ライデンまで帰るのに手段がありません」
「!!」
私たちはそれから、たくさん話しをした。
劇作家の代筆も、あのラブレターも、和平の調印式にもヴァイオレットが携わっていたと聞いて、本当に驚いた。
誰かと食べる夕食。
信頼した誰かがいる屋敷に気配。
暗いだけだったはずの夜は、こんなに暖かいものだったのかと初めて知ることが出来た。