第3章 ヒペリカムの咲く庭で
「……さっきは叩いてごめんなさい…痛かった……よね」
「…いえ」
癇癪(かんしゃく)がだいぶ落ち着いたのか、ミオソティスはゴシゴシと目を擦ってヴァイオレットに謝った。元から色白なヴァイオレットの頬は薄らと赤くなっている。
「…お嬢様は、ご両親の事がとても大切だったのですね」
「……えぇ。誰よりも大好きだった。……ずっと一緒だと、思っていたのにね……」
俯いたミオソティスの肩が震える。
声にならない寂しさや哀しみが発露されないまま、どんどんミオソティスの中で膨れていく。
「お嬢様……っ」
カチャリ……ギュ………
「どうして……っ、どうして、わたしだけ…っ、…っ、のこされ、て………っ」
「……グロリオサ中佐はずっと、お嬢様を大切に……いいえ………あいして、いらっしゃいます」
「…っ、………っ」
「……私は孤児です。ディートフリート・ブーゲンビリア大佐に拾われて、ギルベルト少佐の元で武器として戦ってきました。…この名前は、少佐にいただいたものです」
『ヴァイオレット。君は道具ではない』
「その名が似合う女性(ひと)になるんだ、と。……名前には、その人を想う気持ちが込められているのだと、初めて知りました。グロリオサ中佐もきっと、お嬢様の事を大切に想ってツンベルギアと名前をつけた。……誰もツンベルギアお嬢様を忘れてはいません」
膨れ上がった寂しさや哀しみが爆発して、ツンベルギアはただ泣き続けた。
「……お嬢様のその想いをもう一度、私が手紙にします」